ミツモア Tech blog

「ミツモア」を運営する株式会社ミツモアの技術ブログです

AIネイティブな組織への道

こんにちは株式会社ミツモアでCTOをやっている @fmy です。2025年も毎年恒例のアドベントカレンダーをスタートしていきたいと思います。初回ということで、ミツモアの全社的なAIに対する取り組みをご紹介します。

ChatGPT 3.5のリリース以降、LLMは急速に進化し、あらゆる企業にとって必須の技術となりました。プロダクト開発だけでなく、全部署での業務変革が求められています。業務を変えるには環境と文化づくりが重要です。そのため私たちはまず環境整備に注力しました。LLMは急速に変化するため、一度きりではなく継続的な改善が鍵となります。

本稿は次の3章構成です。全社的な環境づくり、プロダクト本部の開発効率化、プロダクトへのAI組み込み、をそれぞれ概説します。関心のある部分だけでも読んでいただけたら幸いです。

AIを仕事環境に馴染ませる環境づくり

社内の生成AI活用は「個人の試行」から「全社で安全に使える基盤」へ段階的に進化してきました。2023年当初はChatGPT個別アカウント単位の課金から始まり、その後は社内で一貫した体験とセキュリティを確保するためにLibreChat(複数AIモデル対応のオープンソースチャットUI)をセルフホストして提供し始めました。LibreChatでは、OpenAIのGPT、AnthropicのClaude、GoogleのGemini、など幅広いモデルを全社員が自由に使える環境となっています。モデルの進化に追随しつつ、組織としての管理とナレッジ共有を両立できる環境を整えました。LibreChatの利用はどんどん増加していましたが、後述のNotion AIの定着に伴い置換が進み、ここ半年は減少傾向です。

社内のドキュメントの多くをNotionで管理しているミツモアにとってNotion AIの導入は大きな転機でした。現在全社員が積極的に活用しています。Notion AIは全社員分の一律コストが発生するため、社内承認に一定の時間を要しました。ただその効果は非常に大きくコストを大きく上回るメリットがあると考えています。

特に使われているのは、Notionのデータに各種コネクタ(Google Drive、GitHub、Slack など)を併せた横断的な情報取得と質問回答、AIミーティングノート機能、ページの翻訳です。ミツモアは15か国以上の国籍のメンバーが在籍する多様性のあるチームなので日英の翻訳が多用されています。Notion AIは、作り込まれたマルチエージェント・ワークフローと高速応答を支えるキャッシュ構造により、とても質の高い情報取得や文章生成が実現できています。

また社内業務の自動化を狙ってDify(RAG・ワークフロー搭載のオープンソースAIアプリ構築基盤)を導入しました。こちらも全部署で利用が活性化しています。ミツモア事業部では、ヘルプセンターのナレッジを活用したチャットボットにより「依頼当たりの問い合わせ率」を50%削減し、月平均約1,159件の問い合わせ削減、月間約97時間の工数削減を継続的に達成しました。自動化の成果が実業務のボトルネック解消へ直結した好例です。ちなみにこのチャットボットは、非エンジニアがほぼ100%自走で作成しています。そのほかにも大量のワークフロー・チャットボットが全ての部署で作成されています。

利便性が向上する一方で、コストが想定以上に増加してしまったこともありました。一部ユーザーが高価なモデルを必要以上に利用しすぎたり、以前安く高性能なモデルがリリースされたにも関わらず古く高いものを利用継続していたりといったことがありました。LLM利用の可視化とコスト健全化に向けて、各種LLMプロバイダーのダッシュボードやLibreChatのDBの可視化をしました。適切に古いモデルの計画的な停止など、地道な施策が効果的でした。

また直近ではLangfuse(LLMアプリ向けオープンソースのトレース・評価・監視基盤)の導入を進め、プロダクト内のLLM機能、Dify、LibreChatなどのAI利用のトレーシングを横断的に実施できる体制を構築中です。

このように、個人利用の立ち上げから、セルフホスト基盤の整備、業務プロセスへの組み込み、そして可観測性とガバナンスの確立までを段階的に進めることで、「自由に使えること」と「安全に拡大できること」の両立を図ってきました。今後はLangfuseの計測を前提に、費用対効果と品質の改善ループをさらに短くし、プロダクトやオペレーションへのAI組み込みを加速させていきます。

プロダクト開発の生産性向上とその先

社内でのLLM環境の整備と並行して、各種コーディングエージェントを利用してきました。大きな流れとして初期はGitHub Copilot、その後にCursorやDevin、ここ半年はClaude Codeを主要ツールとして活用しています。

現在、大半のエンジニアがClaude Code Maxプランを利用し、日々の実装やリファクタリング、テスト作成に活用しています。導入に当たってはコスト統制と利用しやすさの両立のため、決済金額上限を設定したバーチャルコーポレートカードを利用者全員に配布しています。引き続き各エンジニアが複数のコーディングエージェントを気兼ねなく自由に試せるような環境を整備したいと考えています。

一方でコーディングエージェントがどれくらい開発生産性に寄与したかを直接的に計測することに難しさを感じています。Four Keys(デプロイ頻度、変更のリードタイムなど)などのメトリクスをGrafanaで可視化していますが、さまざまな要因が指標に影響を与えるため、AIによって〇〇%生産性が向上といったことを言い切れていないのが現状です。

最近ではGit AIをトライアルし、AIがコード作成にどの程度寄与したかをトレースする取り組みも開始しました。将来的にはPRライフサイクルや開発メトリクスと接続し、AI関与率やレビュー時間などとの相関を可視化して投資対効果を測定できる状態にする予定です。まずは各チームが自律的に改善できる状態を目指しています。

コーディング支援以外でも、AIでのコードレビュー、PMの仕様書作成のサポート、Figma Makeでのデザインなど幅広く利用が進んでいます。しかし各プロセスが個別に改善を進めているのみというのが現状で、プロダクト開発プロセス全体の包括的な再検討はできていませんでした。

これを進めるべく開発プロセス全体の見直しや、社外のAIネイティブな開発プロセスについて調査・検討をしています。そのうちの1つがAWSが提唱しているAL-DLCです。AL-DLCとはAI-Driven Development Life Cycleの略で、従来の人間中心の開発サイクルを「AIを中心協働者に据えた短サイクル」へ置き換える考え方です。要件整理、設計、実装、テスト、運用までをAIと人間のレビューで高速ループ化し、速度と品質の両立を狙います。特にインセプションでユーザーストーリーとユニット分割を先に固め、以降はAI主導の生成と人間の検証を交互に進めるのがコアです。

AI 駆動開発ライフサイクル:ソフトウェアエンジニアリングの再構築より引用

社内でハンズオンの実施と実際のプロダクトでのトライアルを進めています。現在検証を進めていまして、自社向けのカスタマイズが必要ですが、かなり期待できるものだという感触を得ています。従来の要件定義は、担当者が叩き台を作成→レビュー→修正→再レビューというサイクルを繰り返していました。LLMの登場により、叩き台作成や修正はAIに任せ、人間はプラン策定とレビューに専念できます。さらにLLMの高速性により、このサイクルを1日で回せる点が大きな強みです。

今後は自社向けのカスタマイズや、特に既存コードがある場合の最適化を進めていく予定です。

プロダクトへのAI組み込みとその発展

AIエージェントを使うだけでなく、AIエージェントを提供する側としての活動を進めています。

これまでLLMを組み込んだ機能はいくつかリリースしてきました。ただそれらは基礎的なLLMのAPI利用のレベルであり、Notion AIやClaude Codeの内部にあるような、作り込まれたマルチエージェント・ワークフローといった水準のものではありませんでした。

AIエージェントに特化した開発チームを組成し、プロダクトへのAIエージェント組み込みを進めています。現在は主に自社SaaSである「プロワン」に自然と馴染むようなAI機能を開発していっています。

現在の開発の進め方として以下のような原則を持って進めています。

  • MVP を小さく速く出し、利用実態を観測しながら拡張する
  • UIは“会話”に限定せず、既存フローに溶け込む“ボタン・パネル・サジェスト”の導線を検討する
  • モデルやプロンプトをLangfuseで注入できるようにして、実験を進めながら、コスト・品質・レイテンシの改善を進めていく
  • AIエージェントに必要な共通処理部分(AIエージェントが動くサーバ、そのAIサーバからのMCP利用、AIサーバとブラウザとのWebSocket通信、フロントエンドで動くtoolの依存性注入の仕組み、AIサーバからLLMの利用など)は共通基盤として一般化する

一番最後の部分は別の記事として公開される予定なので詳細はその記事に譲りたいと思います。

公開予定の機能のうちの1つは、もともとDifyで非エンジニアが作成した社内ツールを、社外一般ユーザー向けに展開するものです。そのままだとセキュリティや情報制御の観点で問題があるので新しくできたAIエージェント基盤の上に移植して、テナント境界でデータ分離をし、権限検査をサーバ側で強制します。

AIエージェントに特化した開発チームで得られた知見は、プロダクト本部全体に共有し、ミツモアのエンジニア全員がAIエージェントを開発できるような集団にしていくことを目指しています。ユーザーへの価値提供・機能提供においてAIエージェントも1つの選択肢として常に選択できるようになることが肝要だと考えています。

最後に

ミツモアではソフトウェアエンジニア、プロダクトマネージャーなどを募集中です。

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日本語でも英語でも仕事がしたい、急成長中のSaaSを開発したい、AIエージェントの開発がしたいといった方はぜひ応募をお待ちしております!

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